広報戦略の立て方やフレームワーク、実施メリットを解説

広報戦略による認知度向上の重要性は、インターネットやSNSの普及に伴い注目されるようになりました。この記事では、広報戦略とは、どのようなメリットを得られるのかについて解説します。広報戦略の具体的な立て方や役立つフレームワーク、実施する際のポイントを押さえ、自社の認知度を高めましょう。

広報戦略とは

広報戦略とは、自社の商品・サービスの認知度を高めるための戦略です。企業の長期的な成長のための指針を決定することにより、一貫した取り組みが可能になります。

インターネットの普及により、広報戦略の幅も広がりました。インターネットを通じてさまざまな情報を収集し、顧客の傾向や属性の分析を行うことで、戦略の立案や施策の実施に役立ちます。加えて、さまざまなメディア経由で情報発信すれば、ターゲットに向けて多様なアプローチを試みることも可能です。デジタルマーケティングと広報戦略は親和性が高く、お互いを組み合わせれば各々のメリットを最大限に発揮できます。

広告や宣伝との違い

広報と似た言葉に「広告」や「宣伝」がありますが、それぞれには明確な違いがあります。
広報とは、自社の商品・サービスについての情報を発信し、ステークホルダー(利害関係者)との間に関係を構築するための活動です。企業や団体の情報を広く知らせることを目的とし、プレスリリースや報道機関を利用した情報発信などを行います。多くはメディアへの情報提供という形で行われるため、あまり多額の費用は生じません。

広告とは、自社の商品・サービスの認知度向上や購入促進を目的として行われる活動です。広告の掲載枠を購入する場合、高額な広告費が発生します。
宣伝とは、主として商品・サービスを知っている人へ向けて、購入促進のため行われる活動です。広報と異なり、広告・宣伝ともにステークホルダーとの関係構築は重視されません。

広報戦略が重要視される理由

従来のメディアの衰退とSNS等の普及

広報戦略が重要となった背景のひとつとして挙げられるのは、テレビやラジオといった従来のメディアに代わって、誰もがインターネットやSNSを利用する時代となったことです。実際、総務省の2022(令和4)年の調査報告書によれば、平日におけるインターネットの平均利用時間が、リアルタイムでのテレビ視聴の平均利用時間を2年連続で超過しています。

参考:令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書|総務省情報通信政策研究所(P.6)

こうしたインターネットの普及により、人々はさまざまなメディアを通して大量の情報を受け取れるようになっています。商品の購入にあたり、情報を積極的にリサーチすることも多くなりました。個人が情報を取捨選択できるようになったため、ターゲット層によっては、テレビや新聞のみのアプローチでは強い印象を与えられない場合もあります。

また、今はSNSを通して個人が気軽に情報発信できる時代です。拡散された情報が世論形成や新たな流行につながることもあるため、SNSが自社や自社の商品・サービスに与える影響は無視できません。

膨大な情報の中から自社に注目してもらうには、入念な広報戦略が必要です。企業はターゲット層にマッチしたメディアや方法により、効果的な情報発信をしなければなりません。インターネットやSNSを駆使して、個人と企業の双方向のコミュニケーションをとりつつ、自社のイメージを高められるような広報活動が求められます。

企業イメージへの重要性の高まり

企業が環境や消費者に与える影響は拡大しており、業績だけでなく企業が行う社会貢献や消費者への誠実な姿勢が評価されるようになりました。

「企業の社会的責任」と訳されるCSR(Corporate Social Responsibility)に注目が集まることで、企業イメージの重要性も高まっています。背景として挙げられるのはグローバル化や環境問題の深刻化、国連が発表した「持続可能な開発目標(SDGs)」などです。

CSRを徹底させれば、環境問題や社会問題に積極的に取り組む企業というイメージを与えられるため、企業の評価が高まる可能性もあります。企業としても、これまでにない視点から物事を捉えるきっかけになり、新たな商品・サービスの創出につなげられます。このような企業イメージの向上に大きく寄与する広報戦略を、どのように行うかが重要です。

スモールスタートのしやすさ

スモールスタートがしやすい点も、広報戦略が重視される理由のひとつです。
テレビや新聞などを使った従来の広報戦略には、多くの費用が必要でした。そのうえプランを実行したとしても、望む効果を上げられるとは限りません。

これに対して、SNSやWeb広告などを使った現代の広報戦略では、あまり費用をかけずにスモールスタートを切ることが可能です。ステークホルダーの反響をうかがいつつ、好感触ならば徐々に規模を拡大するなど、リスクを最小限に抑えた広報活動ができます。

広報戦略を立てるメリット

目的に沿ったブランディングができる

無計画に広報活動を行っても、効果は上げられません。広報戦略を立てることで、時代や社会情勢をふまえた長期的なプランを実行できます。ステークホルダーに対して適切なアプローチができるようになり、自社のイメージを守りつつ価値を高めることが可能です。
変化に応じて適宜戦略を変更しつつ、目的に沿って一貫したメッセージを届けましょう。

費用対効果が高まりやすい

SNSやWebメディアを利用することで、費用対効果を高めやすくなります。SNS広告やWeb広告の費用は、一般的にクリック数やアプリインストール数などによって決まります。そのため他のメディアよりも初期費用を抑えられるだけでなく、費用の把握も容易です。
適切な広報戦略を実行できれば、初期費用の数十倍の成果を上げられる可能性もあります。

4ステップで進める広報戦略の立て方

広報戦略は、分析による課題の特定、戦略プランの立案、戦略の実施、効果測定に基づく改善という4つのステップで行いましょう。

1. 現状を分析して課題を把握する

広告戦略を立てるにあたり、まず行うべきなのは現状分析です。自社が目指す姿と現状がどのように乖離しているのか、どういう課題があるのかを正確に把握する必要があります。経営陣だけでなく、従業員から広く意見を求め、課題を洗い出しましょう。

次に、ステークホルダーに対する調査も行います。ステークホルダーの属性や傾向を分析して、戦略の対象を絞り込みましょう。ステークホルダーからの印象や自社との現在の関係、現在の広報戦略が十分な成果を上げられているのかを明らかにするのがポイントです。
現状の課題をふまえて、実現すべき目標を設定しましょう。

2. 広報戦略のプランを立てる

現状分析の後は、具体的な広報戦略プランを立てましょう。プランの作成にあたり、以下の項目を検討する必要があります。

・広報活動の目的やテーマ
・広報活動によってステークホルダーに伝えたいこと
・利用するメディア
・広報活動を行う期間
・予算

課題の解決に向けて必要なプランや改革を考えます。ステークホルダーへメッセージを届けるために適切なメディアや、どのような形で伝えればよいのかを決めましょう。

広報戦略は短期間では実現できないため、数年がかりの長期的なスケジュールを組む必要があります。複数のプランを展開することを想定し、各プランに予算を割り当てたうえで全体の予算を決めましょう。上記の項目について、広報チーム内で意見や認識の違いがなくなるまで話し合うことも重要です。

3. 広報戦略を実施する

立てたプランに基づき、広報戦略を実施します。ここで重要なのはメッセージの一貫性と、全社的な情報共有です。

広報戦略は長期にわたり行うため、ステークホルダーに発信する情報が自社の方向性やイメージと逸れないように心がけなければなりません。広報の目的通りにステークホルダーが情報を受け取れるよう伝え方を統一し、表現にも気を配りましょう。一貫したメッセージを長期間発信し続けることで、ステークホルダーからの信頼を得られます。

さらに、広報チーム内の人員交代などによって、発信するメッセージの一貫性が損なわれる事態を避けるため、情報共有を徹底し全社員が同じビジョンを持つことが重要です。

4. 効果測定を行い改善する

プラン実施後は、結果に対する分析と評価を行いましょう。分析にあたっては、メディアへの掲載数やサイトへのアクセス数などを集計します。数値化されるデータだけでなく、ステークホルダーからの印象や反響などのデータも収集しましょう。さまざまなデータを収集することによって、多方面からの分析が可能です。

ステップ1で設定した目標が達成できなかった場合は、原因を分析する必要があります。結果から改善点を明らかにし、次の広報戦略に反映させることが重要です。効果を上げられた場合もなぜ成功したのか、より良い結果を出すにはどうすればよいのかなど、検討すべきポイントは多くあります。詳細な記録を残し、ノウハウを蓄積させましょう。
適切な効果測定を行うことで、望ましい広報戦略を立てられます。

広報戦略に役立つ3つのフレームワーク

具体的な広報戦略を立てるうえでは、一定の思考枠組み(フレームワーク)を活用すると便利です。以下では、戦略の立案に適した3つのフレームワークを紹介します。

PEST分析

自社を取り巻く外部環境は、競合他社などのミクロ環境と、政治・経済などのマクロ環境に大別できます。自社がある程度統制できるミクロ環境と異なり、マクロ環境は自社での統制はできません。
PEST分析は、以下に示すマクロ環境の要素が自社にどのような影響をもたらすのかを分析するためのフレームワークです。

・Politics(政治):法的規制・法改正、政府の動向・施策など
・Economy(経済):物価変動や景気、株価など
・Society(社会):世論や社会環境など
・Technology(技術):技術革新や特許など

さまざまな情報を上記の要素に振り分けて脅威を洗い出すことで、自社に生じうる脅威やビジネスの機会が明らかになります。予測をもとに広報戦略を立てれば、時代や市場の変化への柔軟な対応が可能です。

SWOT分析

SWOT分析は、自社の環境を以下の要素に分けて現状を分析するフレームワークです。

・Strength(強み):内部環境(自社)・プラス要因
・Weakness(弱み):内部環境(自社)・マイナス要因
・Opportunity(機会):外部環境(市場)・プラス要因
・Threat(脅威):外部環境(市場)・マイナス要因

上記の要素の組み合わせによって戦略を検討することで、自社と市場の動きを予測して広報戦略に反映させられます。
SWOT分析の難易度は低めであり、自社独自の傾向や見解をつかみやすい点が特徴です。分析により、自社独自の広報戦略を生み出せる可能性もあります。

4P分析

4P分析はマーケティングで多用されるフレームワークであり、以下に示す視点から分析します。

・Product(製品):どのような商品・サービスを提供するか
・Price(価格):どれくらいの価格で提供するか
・Place(流通):どのように提供するか
・Promotion(販売促進):どのように販売促進するのか

上記の各要素について分析し、組み合わせることで戦略を具体的なプランに落とし込めます。関連する要素を検討することにより潜在的リスクを把握でき、コストや販促活動との釣り合いがとれるはずです。

広報戦略を実施する際のポイント

社会情勢などに応じて柔軟に戦略変更する

環境や社会情勢やステークホルダーの傾向など、自社を取り巻く状況は変化し続けます。自社の指針や経営状況も変化し、予測していない事態も生じます。
そのため、どれほど入念な戦略を立ててもプラン通りに進むとは限りません。一度立てたプランにこだわらず、状況に応じて変更・調整することが重要です。柔軟な思考を持つことで、さまざまな変化に対応して目標を達成できます。

分析力や管理能力を身につける

広報戦略には、複数のスキルが必要です。創造的な発想力や表現をするスキルに加えて、特に重要なのは分析力やプロジェクトの管理能力です。
分析力は、広報戦略を立てるすべてのプロセスにおいて必要になります。前述した課題の明確化や、プラン実行後の効果測定と改善においては、さまざまな情報をもとに現状を正確に把握・分析しなければならないためです。

さらに、広報戦略を成功させるには管理能力が不可欠です。担当者は予算や関係者の都合を把握してスケジュールを組み、進捗状況を確認しながらプロジェクトを進めます。広報チーム内のメンバーやその他の部門の人員と適切なコミュニケーションをとりつつ、不測の事態にも動じずに広報戦略を進めていかなければなりません。また、この際には業務の属人化にも気をつけましょう。

効果測定・改善を怠らない

前述の通り、望ましい広報戦略のために効果測定・改善は欠かせません。戦略の実行前と実行後を比較し、どれほどの効果があったのかを定量的に評価することが重要です。
効果測定の結果から課題や改善点を見つけ、新たな戦略を実行しましょう。計画・実行、評価・改善のPDCAサイクルを回し続けることによって、効果的な広報戦略が可能になります。

広報戦略の事例

現状分析と対策の立案による日本一の達成

地方自治体による広報戦略の成功例が「いばキラTV」です。
いばキラTVは、茨城県が運営する動画サイトです。県民からのテレビ局開設要望に応える形で2012年に開局しましたが、アクセス数は低迷していました。

アクセス解析を行った結果明らかになった課題が、ネット動画の特性と合わない番組を配信していたことや、サイトの来訪者に動画を見てもらう設計になっていることです。特に後者の課題解決に向けて、いばキラTVではプラットフォームをYouTubeに変え、サイトに加えてYouTubeチャンネルとしての配信を開始しました。さらに、コンテンツを豊富にする、クリックされやすいテクニックを駆使するなどの工夫も行っています。各動画の再生が止まった部分を分析して、改善点を見つけるPDCAサイクルも実施しました。

情報の発信者の意見だけでなく視聴者の意見を取り込むコンテンツ作りに尽力した結果、2016年1月にはYouTubeでの累計再生回数と動画掲載本数、チャンネル登録者の部門で日本一を達成しました。

参考:いばキラTV

中長期的な広報戦略の策定による目標達成

あるグローバル企業は、地元以外での認知度が低いという課題を抱えていました。課題解決のために掲げた広報戦略が、広告換算額を1.5倍に増やす、全国放送のテレビ番組に出演するという目標です。

広告換算額に関しては3年間の計画として策定し、積極的な情報発信を行いました。配信量を増やしてメディアが関心を持ちやすい発信を行い、プレスリリースを地元に加えて東京のテレビ局にも送ることで、テレビ局との関係強化を図ります。自社の若手が中心に成し遂げたAI導入の取り組みが大手経済雑誌で紹介されるなど、広報PRも成功しました。

さまざまな活動により広告換算額の目標は達成したものの、全国放送のテレビ出演については自社の働きかけという形では実現しませんでした。しかし、カラオケルームで自社製品の貸し出しをすることで、SNSでの反響やテレビで大きく取り上げられるという成果が得られました。

広報戦略によって、企業は認知度や影響力を高められます。実行にあたり、適切な方法やフレームワーク、注意点を押さえて進めましょう。

まとめ

従来のメディアが衰退しSNSやインターネットが普及した影響を受け、広報戦略の重要性は増しました。適切な広報戦略を立てることで、自社の商品・サービスについて一貫したメッセージを発信できます。
広報戦略を進めるにあたっては、現状分析を行ったうえで、フレームワークなどを活用してプランを設定しましょう。実施後は効果測定を行い、プランを改善し続ける必要があります。また、分析力や管理能力を向上させ、社会情勢に応じて戦略を変えることが重要です。
本記事を参考に、自社の広報戦略を立ててみてください。

この記事の執筆者

ナインメディア編集部

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